「陶芸と人々 」カルロタ・サンピエトロさん

「陶芸と人々 」カルロタ・サンピエトロさん

「陶芸と人々」シリーズ第2回目のインタビューは、カルロタ・サンピエトロさんにお願いします。彼女は陶芸家であり、陶芸教室を行う先生でもある。2015年、バルセロナのオルタ地区にアトリエ「ラ・マニエリア」をオープンしました。


私たちは、彼女の作品や更に教室運営はどのようにされているのかなどを聞きたいと思い取材を依頼しました。ちなみにカルロタさん、アンナの陶芸デビュー時の師匠なんです。彼女のおかげで陶芸Tocotonはスタートできたといってもいいぐらい、大変重要な人物のお一人。

カルロタさんが考古学の影響を受けつつ研究をしている土についてのお話を伺いました。これは陶芸を学びたい皆さんにとっても、「土と陶芸」をより身近に感じてもらえるお話です。


彼女の作品を見たい方、陶芸教室についてもっと知りたい方は、インスタグラムのプロフィール @carlota_sampietro_maruri / @lamanyeria またはウェブサイト https://lamanyeria.cat/ をご覧ください。


 


Q.陶芸を始めたのはいつですか?

小学校のとき、6歳から始めました。オルタ(バルセロナにある地区)の課外授業で陶芸をやっている友達がいたんです。彼女と一緒に陶芸を始めたんだけど、その子は結局、陶芸をやめちゃいました。私は18歳まで続けていたんですが、人生のいたずらなのか、大学で本当に勉強したかった修復学ではなく、美術の学位に申し込んでしまい、時間割がちょうど課外授業で続けていた陶芸の授業と重なったため、陶芸の授業には出なくなりました。でも、大学を辞めたとき、私が昔から陶芸が好きだったのを見ていた母が、陶芸を勉強するよう説得してくれたんです。


バルセロナのロハ・デ・バルセロナで芸術陶芸の高等学位を取得し、その後にはカタルーニャで文化遺産の保存と修復を学びました。子供の頃から、修復や考古学を学びたいと思っていた私にとって、陶芸を学ぶことが、悩み多き時期を抜け出す良いきっかけになったのです。


Q.陶芸家になりたいと思ったきっかけは?

意識して考えたことはなかったですね。陶芸が好きだったので、将来はなにかワークショップでも出来るように勉強しようと思っていました。陶磁器の材料はたくさんあり、修復学にもつながるし、自分のキャリアを補完するのにいいんじゃないかと思ったんです。実際、私は修復家になりたくて、修復の勉強をしました。しかし学位取得後、就職先がいかに少ないかを思い知りました。私の両親はとてもうるさい人たちだったのですが(笑)、10年前に閉めたお店を陶芸工房として立ち上げてみたらどうかと言ってくれたのです。それで両親の言葉に甘えました。


もともと趣味で陶芸をやっていたんですが、仕事として開始したんです。子供の頃、オルタの陶芸家クリスティーナ・セニンの自宅アトリエで陶芸を習っていたとお伝えしましたね。彼女は私に最初の窯場を与えてくれました。陶芸に専念するよう私を誘ったもう一人の人物です。チャンスがあるなら、やるべきだと思っているんです。


Q.保存修復学を学んだことは、あなたの作品に何らかの影響を与えましたか?

子供の頃から、古代エジプトの作品など、古代へタイムスリップしたようなものが好きでした。


古いものが壊れたり、不要になったりすると笑いがこみ上げてきちゃうんです。更に誰かが古いものを捨てると、とてもうれしくなってしまうんです!誰だって最初は分からないけれど、この作品は未来の考古学者のためだと言うんです。ゴミになったものはすべて、未来の世界で考古学者が発掘するものになるでしょう?だから生徒たちにはいつも言っているんですよ: 誰が作ったかわかるように、作品にサインしなさい!ってね。


いつだったか、工房に来る子どもたちが陶器のタブレットを作ったことがあります。300年後、考古学者がそれを見つけたら、何と言うんでしょうね。


Q.作品を作るとき、他に参考にするものはありますか?


いえ、自分が好きなものを徹底的に作り上げます。自分が思っている通りに。たとえそれが意味が分からないものだったとしても。すごく哲学的である必要はないし、だからといって詩的である必要もないんです。ストーリーを説明したり、想像できるようなもの。例えば、この辺に置いてある動物の形をした作品は、私たちがあまり大切にしていない世界の生き物たちへの賛歌のようなものだと思っています。小さなトーテムのように象徴的なものですね。
もうひとつの例は、少し前に作ったタイルの作品。この作品を作ったとき、私はすでに未来の世界で考古学として発見された作品を想像して作っていました。


私が作るすべての作品には、複雑ではないストーリーが隠されているんです。鳥が飛んでいるカップなら、鳥がどこから飛んできたのか想像しながら見られます。まぁ、もしかしたら、その作品を買った人はそんなことを考えないかもしれないですけれど。


Q.粘土を扱う上で、陶芸家・工芸家として参考にしたものはありますか?

特にありません。洞窟のような質感のものだったしても、陶芸は工芸作品であるという想いを持って作っています。


作業の多くは、必要に迫られてやるもので、記録はつけていません。たぶん、私たちは日常を失ってしまったのでしょう。工房という空間はまるで機械のようなもので、決して止まることはありません。この工房で鉄を作っていた私の父も同じように働いていました。いつも見てきた毎日毎日同じ動きをする父の働き方を真似てしまっているのだと思います。ただ本当に毎日、陶芸の授業が終わったら、自分の仕事に関係することをするんです。夜12時には閉めるかな。とってもラフな感じで仕事をしています。


Q.良い陶芸を作るのにどんな品質が必要だと思いますか?

一番重要なのは、製造上のミスがないこと。例えばヒビが入っていないことです。もちろん、場合によってヒビ割れは美しいと言えますが、使うときにダメになってしまっては、良い品質とは言えないと思います。



Q.作品を作る全工程の中で、好きな部分はどこですか?

すべての工程が好きですが、分岐点となるポイントがあります。作品の形作りをする時と、デザインをする時の作業の間に。この時点ですべての労力が泡になることもあれば、世界最高の作品ができることもあるのです。

たとえそれが地味な色であったとしても、作品に個性を与えるのはデザイン作業なんですが、私はおそらく作品の形を作る時をより楽しんでいると思います。
絵付けについても、絵付けをワザとしない時があります。それは、失敗したくないからなのか、それとも美的判断からなのか分からないけれども。

時々考えるんですよ、私の作品に「特定のシリーズ」のようなものがないのは、仕上げを失敗するのが怖いからか、ただそういう判断なのか、と考えることがあります。陶芸の最終的な仕上げがもっと簡単だったら、もっといろいろなことに挑戦できるかもしれないです。


Q.いつも同じ種類の粘土を使っているのですか?

最初にもらった窯が低温窯だったので、いつも低温窯用の粘土を使っています。もっと大きな工房があれば、高温の粘土も使うかもしれない。色に関しては、赤、白、黒の粘土を持っています。赤はエスパレゲラ産(スペインの地名)で、私にとっては最高です。白と黒は扱いが難しいですね。

なぜなら、釉薬や化粧土を塗るとき、色がよりはっきり見えるし、他の色ではなく白い背景を見ることに慣れているからなんだと思います。


作品をデザインするとき、他の芸術や工芸の分野を参考にすることはありますか?


ええ、60年代や70年代の家具のデザインがとても好きです。また、必要に迫られて生まれたデザインも好きです。修復の学位取得のための最終課題は、このテーマに関してでした。日常生活でも何でも、同じものを何度も修理して使いたくなることがあるのは、それが自分に合っていて、他の物に買い替える必要がないからですよね。この考え方は私の作品にも受け継がれており、陶芸の製作過程の痕跡や小さな欠けなどを意図的に残すことで、美術品としてではなく、日常生活での機能を備えた作品であるようにしています。機能美を持って、日常生活で使える道具とするなら、芸術的な見栄えだけを完璧に備えた形じゃなくてもいいと思っているんです。


Q.今後作ってみたい作品は?

とても好きなのですが、まだあまり作っていない作品があります。それはモビールです。光と動きで影を作るところに惹かれますね。インスタレーション・アートのような大きなモビールを作ってみたい。私の仕事とは関係ないのですが、他のオブジェを使ったモビールを見ると、とても好きになります。陶器でやってみたいですね。

※インスタレーション・アートとは、1970年代以降一般化した、絵画・彫刻・映像・写真などと並ぶ現代美術における表現手法・ジャンルの一つ。ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術。(Wikipedia より)

 

Q.どのような陶芸教室をされているのですか?

大人向けと子供向けのクラスがあります。最低でも1カ月は通ってもらい、陶芸家とはどういうものかを見てもらいます。社会は非常に速い経験に向かって進化していますが、私は、どのように仕事をするかということをもっと意識してほしいと思います。


陶芸をやったことがない生徒には、さまざまな技法を使った一連の構成練習をさせます。芸術的なことは何もやったことがないと言うので、みんな少し恐る恐るやり始めるんですよ。

大人向けのワークショップでは、彼らのやりたいことにもう少し合わせます。いろいろなテクニックを学びたい人や、ピンタレストで見た作品を作りたい人もいて、そこからテクニックを説明します。また、型を使って作品を作りたいという人もいます。型を使って作るほうが、手で作るよりも早いので、絵付けをもっと楽しむ時間があるからでしょうね。


Q.通常、1セッションの人数は何人ですか?

グループは6人ですが、クラスを作りたい人がいれば8人まで可能です。



Q.生徒の年齢は?

5歳以上からです。週末に家族でワークショップをすることもありますが、その場合は年齢を問いません。10代の子たちはあまりいないけど、スタジオをオープンしたときに5、6歳で始めた女の子のグループはいますね。彼女たちはいつも集まってきますよ。


子ども向けのワークショップは、大人向けとはかなり違いますか?教え方のプロセスやテクニックのアプローチの仕方は違いますか?


大きな違いはありません。たしかに、黒土は掃除が大変なので、きちんと仕事をする子でない限り、基本的には子どもたちには預けません。月末にやっているろくろ体験では、電動ろくろを使うことができます。私がたくさん手伝うと、手を入れてくるんですよ(笑)。でも教え方は同じです。


最初のうちは子供たちと一緒に練習もしますが、子供たちは大人よりも自由な感じで、大人よりも早くいろいろなことに挑戦し始めます。失敗しても恥ずかしくないからですね。


Q.子どもたちが粘土に触れることは重要だと思いますか?

そうね。土を触っていると、自分自身について学ぶことが多いと思う。粘土は、物事をどのように管理するかを映し出すものです。注意深いかどうか、作品をどのように仕上げるか、しっかり気を配っているか...。土は乗り物と同じ感覚です。


しかしその一方で、子どもたちは一般的に、自分が扱っている素材(この場合は粘土)から自分自身を切り離してしまっているように思います。物事がどこから来るのかという考えから切り離されたまま長い年月を過ごしてきたので、粘土がまるで、包装されたパッケージから出されたものだと思い込んでしまうことがあるんです。土は大地からくるというのに!


私のところへ陶芸作品を注文に来る人たちは、値段を言うと文句を言います。作品を安くするために、陶器を焼かないでくれと言うんですよ。それって、マカロニを茹でずに調理したものとして、買うようなものです!私たちはマカロニのことは知っていますが、それ以外の身の回りのことについては、何も知らないのです。本当に知らないことが多すぎます。


粘土に触れることで、子どもたちは自分自身と土が繋がる感覚を持てるけれど、土自体がどこから来たのかは知らないし、聞こうともしない。もし私たちが、身の回りのものがどのように作られ、どのような時間とコストがかかっているのかを知れば、全ての事に対してもっと尊敬する気持ちを持つと思うんです。


Q.生徒の進路や仕事は、陶芸と何か関係がありますか?

ほとんどの生徒が陶芸とは関係ありません。息抜きのために、自分のために何かを作りに来るのです。もちろん、時々は自分の作った作品を売ってお金にしようと思う人もいるんですが、私の意見としては、体験などで作った作品を売るのは賛成できません。陶芸家として作品を売るなら、基礎的なことなどをきっちりと勉強し修行をしてから売ればいいと思います。良い作品をお客様に届けたいと思っているからこそ、なんですけどもね。



Q.大人の生徒がワークショップに来る理由は何だと思いますか?

参加者のほとんどが女性です。男性は自分で何かをしたり、人と関わったりすることがとても難しいように見えます。来ている女性の多くは、教師、特に幼い子どもの教師、ソーシャルワーカー、ストレス解消のために来ている人、IT関係でもっと自分の手で触れる作業をしたいと思っている人が来てくれます。


Q.生徒が初めて陶器を作ったとき、どんな反応をしますか?

大人は出来上がりを見て、ちょっと子供っぽい感じがすると思うようですね。でも、もちろん最初の作品ですからね!子供たちは、底に穴の開いたマグカップを作って、「これは世界一のマグカップだ!」と言うんです。子どもたちは楽しい時間を過ごしに来ている証拠ですね。それに比べると、どうしても大人は最初から完成度の高い作品を作れるんじゃないかと高すぎる期待を持ってやって来る事が多いように思います。



Q.あなたが初めて作品を作った時の気持ちを覚えていますか?

初作品の時のことはあんまり覚えていないけど、子供の頃に陶器を作っていた時の気持ちは覚えています。とてもリラックスして集中していたので、まるでトランス状態のように、起きながらにして夢を見ているようでした。


集中して楽しんでいるときは、まるで旅をしているようで、とてもいい感じなんです。集中すると周りから遮断されるでしょう?そんな感覚です。ゆっくりと足を止めて、周りを見渡して、私、幸せだなって思うようなそんな気持ちです。


Q.粘土を使うことで、自分自身とつながることができると思いますか?

感情的につながることができると信じています。肉体的な面は、同じことをずっとやっていると、自分が何をしているのかわからなくなる瞬間が来るんです。そうすると疲れが出てきて、最初の作品と最後の作品が全然関係ないことに気づいたり。もうそうなってしまうと、肉体的だけではなく精神的にも疲れてしまう。


Q.手作りのものは、特別だと思いますか?

例えば、プレゼントされたものであれば、それをくれた人を思い浮かべることができるでしょう? しかし、自分で作ったものであれば、まるで自分自身にプレゼントしたようなものですよね。子供を授かったようなものだと言う人もいるんです。いい意味でも悪い意味でも、いろいろな思いがあります。壊してしまった時、捨てるのは辛いですが、ほら、前にお話した考古学者のことを考えてみてください!未来の世界できっと誰かがあなたの手作り作品を見つけて、色々考えてくれるかも!?


Q.先生として満足していることは何ですか?

ワークショップで一番大切にしているのは、粘土で物を作ることよりも、人と関わることです。粘土という道具を使った人間関係ですね。


このアトリエでは、とても面白いグループができていて、中には工房オープン当時から通ってくれている人もいて、みんなが楽しんでいるのを見られます。家族的な雰囲気がありますね。子どもたちが楽しんでいる姿を見るのは、教師としてとても嬉しいことです。また、いろいろな作品ができるのを見るのも楽しいものです。


Q.最後に、陶芸をやりたいけれど、うまくできないだろうと思い込んでいて、あえてやらないという人に何か言いたいことはありますか?

なんでも結果を急いでしまうことの全ては、社会的に私達自身が期待をかけ、すぐに結果を求めるというシステムに基づいています。スポーツジムに通うのもそうです。すぐに結果なんて出ないのに。

外食や映画館に行く時間を楽しむためにお金を投資するのなら、陶芸のような活動にも同じことをするのはどうでしょうか。物質的なものにお金を払うという概念から解放されましょう! 出来栄えが良いとか、作品が美しい、美しくないといった批判を抜きにして、楽しい時間を過ごすためにお金を払うんです。もし良い作品ができたら、楽しかった体験を思い出すための良いアイテムになります。こんな考え方になるのには、多少の時間とお金がかかるけれど、悪いことではないですよ。得られるものも多いですしね。


粘土遊びをしているとき、いたって自由で、きらきらと目が輝いている生徒がいいます。人は、自分自身の感覚や気持ちを守りながら、既視感に満ち溢れた期待なんて捨てて、自由にただ、自由にもの作りを楽しめばいいんだと思います。

ブログに戻る

コメントを残す

コメントは公開前に承認される必要があることにご注意ください。